内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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    ”胃瘻の功罪”論の功と罪
  蟹江治郎
 第19回 日本在宅医学会大会  【ディベートセッション】  今一度問う,胃瘻の功罪  2017/06/18

 胃瘻は人工的水分・栄養補給法(以下,AHN)の一手段であり,腸管機能が保持され長期の栄養管理を要する症例において適応がある.しかしながら,「口から食べる事は素晴らしい.」という着眼点が逆の解釈として,「口から食べられなければ生きている価値も無い.」という論理に置き換えられたのが,いわゆる胃瘻バッシングである.この胃瘻バッシングにより,本来ならばAHNの適応として胃瘻が選択されるべき事例において正しい選択がされず,胃瘻の本来の目的である“栄養状態の改善により全身状態を回復し,再び経口摂取を目指す”という機会を与えられる事もなく,尊厳死という名で餓死させられる惨状には目を被うばかりである.
 前述のごとく胃瘻はAHNの一手段に過ぎない.しかし,その一手段が死生観と混同して比論がなされ,その適否が論じられる”胃瘻の功罪論”は,そもそも議論を行う事が適切なのか疑問を感じざるを得ない.このセッションでは,近年,我が国における胃瘻の諸問題について取り上げたい.
 まず,”胃瘻にしたらもう経口摂取が出来ない”という誤った理解に基づく問題がある.この認識が患者家族,時には医療者にもあり,その選択を躊躇させられる事例がある.これは胃瘻を行う真の目的,”栄養状態の改善により経口摂取を再開させる”といった点が十分啓蒙されていない事に由来するものと考えられる.次にAHNを非選択または中止する場合の問題がある.AHNの中止は医療行為の中断を意味する.この場合,患者が医療機関に入院中ならば退院を余儀なくされるが,AHNなしで看取りを行える施設の整備が十分とはいえない.また中止により医療者が訴追を受ける事を避けるための法的ルールが整備されていない.最後に胃瘻非選択により他のAHNが選択される際の問題がある.AHNにおいて消化管機能が保たれている症例には,経腸栄養が適する事には議論の余地はない.また胃瘻は経鼻胃管に比較して患者の苦痛が少なく,嚥下リハビリも行いやすい.この胃瘻適応症例において拒絶が生じた場合,安易に他の栄養投与法を選択するのは慎重にすべきである.

 

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